睡眠時無呼吸症候群による高血圧、動脈硬化やストレスが引き起こす心臓病

睡眠時無呼吸症候群がどのようにして心臓病を引き起こすか、それには4つの理由が考えられます。

1つ目は、先ほど述べましたように睡眠時無呼吸症候群が高血圧の原因となり、動脈硬化へ発展して心臓へ悪い影響を及ぼすことです。高い血圧が血管に負担をかけて、血管の内壁を傷つけたり固くしたりして動脈硬化を引き起こし、放置すると心臓病を発症するリスクが高くなります。

2つ目は、心臓に大きな負担をかけてしまうことです。低酸素状態は人体にとっては一大事ですから、心臓は酸素を取り入れようとして急激に心拍数を上げます。眠っているのに激しい運動をしたような状態になっているため、心臓には当然、負担がかかります。睡眠時無呼吸症候群の患者の心臓は、夜間にこのような状態で、強いストレスにさらされているのです。これが長く続けば心臓の機能が低下することもあります。

3つ目は、「酸化ストレス」による動脈硬化です。低酸素状態と呼吸が再開された後の正常な酸素状態を周期的に繰り返していると、体内が酸化ストレスに曝され、これが血管を傷つけ、血管の壁にプラーク(コレステロールや脂肪の塊)ができる原因となり、動脈硬化を進行させるのです。4つ目には、低酸素状態によって交感神経が刺激されることが挙げられます。これらの原因が複合的に影響して、心臓病を引き起こす危険性が高まると言われています。

睡眠時無呼吸症候群による不整脈

睡眠時無呼吸症候群の結果、心臓に「不整脈」が起きやすくなります。不整脈とは、心臓の拍動のリズムが乱れることで、脈が飛んでしまうこと(期外収縮)と、異常に速くなること(頻脈)や遅くなること(徐脈)を言います。睡眠時無呼吸症候群の患者さんを観察した結果、その約50%に何らかの不整脈が見られたという研究も報告されています。特に生命にかかわる心房細動や心室性頻拍症が睡眠時無呼吸症候群の方には多いことが問題です。

睡眠時無呼吸症候群による不整脈は、呼吸停止時と再開時の心臓の動きが関係するケースも見受けられますが、自律神経の乱れも大きな原因になっていると考えられています。睡眠時無呼吸症候群の人は、寝ている間に酸欠状態と呼吸の再開を繰り返すうちに、短期の脳の覚醒を起こしています。このような状態のときは、自律神経の中でも交感神経が刺激を受けます。交感神経は、人体の活動を活発化する働きがありますので、本来休むべき夜間に交感神経が刺激されることは体にとってはストレスになり、心臓に異常な動きを生じさせるのです。睡眠時無呼吸症候群の治療を開始すると、不整脈は改善されたり、治療効果が現れやすくなったりします。

狭心症と心筋梗塞

種々の原因によって起きる動脈硬化は血管の壁にプラークを作り、「狭心症」と「心筋梗塞」の原因になります。これらは、心臓に新鮮な血液を供給している冠状動脈という血管の内部が細くなってしまって、心臓の筋肉に十分な酸素や栄養が行き渡らなくなることから起きる病気です。狭心症は、冠状動脈が部分的に細くなり血流が悪くなることが原因で起きます。突然、胸に痛みを感じますが、長くても15分以内におさまります。血管が完全に詰まってしまった状態が、心筋梗塞です。心筋梗塞では胸の激しい痛みを伴った発作が長時間続くこともあり、突然死の危険もあります。

睡眠時無呼吸症候群は動脈硬化を悪化させる要因であり、その結果、睡眠時無呼吸症候群はこのような心臓病を引き起こす危険性が高く、狭心症・心筋梗塞になる危険性が2~3倍、不整脈になる危険性が2~4倍というデータもあります。早めの診断と治療が必要です。

心不全と中枢性無呼吸

心不全は心臓の働きが低下した結果、身体のすみずみにまで酸素を多く含む血液を配れない状態です。その原因は心筋梗塞や不整脈や弁膜症など様々なものがありますが、いずれの場合でも心不全が悪化しますと脳の呼吸中枢に悪影響を及ぼし、睡眠時無呼吸が生じます。そうして酸素不足が進むと心不全がさらに悪くなるのは容易に想像できるでしょう。また閉塞性睡眠時無呼吸症候群がありますと息を吸うときに胸部は陰圧になりますが、気道が閉塞しているために空気は入ってこないものの、血液は流入してきますので、心臓の負担はさらに増し、心不全を悪化させます。睡眠時無呼吸症候群をCPAPなどで治療しますと心不全は軽快し、心不全が良くなると中枢性睡眠時無呼吸も改善します。