睡眠時無呼吸症候群が合併症を引き起こす理由

睡眠時無呼吸症候群はただ単に一時的に呼吸が止まるだけの疾患ではありません。呼吸が止まることにより血液中に取り入れられる酸素量が大幅に減り、血液中の酸素濃度を表す「動脈血酸素飽和度」は呼吸不全状態と同様にまで落ち込みます。呼吸不全に陥るというのは救急搬送されたり酸素吸入を行わなければならない事態です。酸素不足を補うために心拍数は跳ね上がり、これに従って血圧も急激に上がります。
心臓や脳、血管に大きな負担がかかるこの異常状態が、1晩に何度も繰り返され、治療を行わなければ数年にわたって続くのです。蓄積された負担は、高血圧症、狭心症、心筋梗塞、慢性心不全、不整脈、糖尿病といった疾患を併発する要因となります。その中でも最も恐ろしいのが脳卒中です。

脳卒中が起きるメカニズム

脳卒中は、がん、心疾患、肺炎に次いで日本人の死因第4位の疾患です。死亡要因になるのと同時に後遺症が残ることが多く、寝たきりになりやすいのも特徴です。65歳以上で寝たきりの人の原因の1位は脳卒中だといわれています。脳卒中には脳の血管が破れる「頭蓋内出血」と脳の血管が詰まる「脳梗塞」があります。頭蓋内出血には脳内出血とくも膜下出血があり、脳梗塞にはラクナ梗塞、アテローム血栓性梗塞、心原性脳塞栓症があります。
いずれも健康な人が発症することはまれで、脳内出血の場合は高血圧によってもろくなった動脈が破れることで引き起こされ、脳梗塞の場合は高血圧によってできた動脈壁の傷が修復されて厚くなり、狭くなることで発症します。このことから分かるように、脳卒中の最大の危険因子は高血圧なのです。血圧が急激に高くなる睡眠時無呼吸症候群が脳卒中を併発しやすいのはこうした理由からです。睡眠時無呼吸症候群の症状が重いほど、脳卒中の発症リスクも高くなるといわれています。

睡眠時無呼吸症候群の種類と要因

睡眠時無呼吸症候群には「閉塞性」と「中枢性」の2つのタイプがあります。「閉塞性」は上気道が何らかの要因でふさがれ呼吸ができない状態で、「中枢性」は呼吸中枢の機能に問題が起き、呼吸をするための指令が脳から送られない状態を指します。「閉塞性」は寝ている間に舌が落ち込み、気道をふさぐことで発症します。重力によって舌が喉の奥の方に少し落ち込むのは正常な状態ですが、気道自体が狭い場合やあごが小さい人、肥満によって気道の周りに脂肪がついている人などは気道がふさがれやすくなります。
睡眠時無呼吸症候群の人はいびきをかくことで知られますが、これは狭くなった気道を空気が通るときに発せられるためです。肥満ではないのにいびきをかく場合などは睡眠時無呼吸症候群の可能性がないか注意したほうが良いでしょう。

睡眠時無呼吸症候群を治療して脳卒中を予防

脳卒中はほかの疾患によって血管が傷むことで引き起こされるため、原因となる疾患を治療すれば予防することが可能です。睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は、まずしっかりと治療を行いましょう。「閉塞性」の治療は、肥満の場合は体重を減らすこと、飲酒習慣の見直し、睡眠薬使用の制限、横向きに寝る、鼻の疾患の治療などによってある程度まで改善が望めます。夜間にマウスピースを装着して気道を広げる方法や、特別なマスクを着けて気道に空気の圧力をかけることで吸入する酸素の量を確保する方法(CPAP療法)が行われることがあるほか、上気道を広げる耳鼻科的手術が必要な場合もあります。
「中枢性」の場合は、発症と関係すると考えられている循環器系疾患の有無についてまず調べます。循環器系の疾患がある場合はまずしっかりと治療し、治療を行っても改善が見られない場合は閉塞性同様にCPAP療法を行うこともあります。睡眠時無呼吸症候群は自分で気づきにくい疾患ですが、脳卒中などの重篤な疾患を防ぐためにも、疑わしい症状がある場合は専門医で適切な治療を受けることが大切です。